正直に言います。AGA治療で私がいちばん引っかかっていたのは、お金でも通院の手間でもなくて、「性欲、落ちるらしいよ」という噂のほうでした。

40歳。これからAGA治療を始めようと調べている真っ最中です。で、検索するたびに出てくるんですよ。性欲低下、ED、動悸、むくみ。しかも書いてあることが記事ごとに違う。「ほとんど起きません」と「けっこう起きます」が同じ検索結果に並んでる。どっちだよ、と。

なので、クリニックの解説記事を読むのをやめて、薬の添付文書(メーカーが国に届け出ている公式の説明書)と、日本皮膚科学会のガイドラインを直接読みました。そうしたら、モヤモヤの正体がわりとはっきりしたんです。結論から言うと、性欲低下と、動悸・むくみは、そもそも別の薬の話でした。

「性欲低下」は実際どれくらい?国内の試験に出ている数字

まずいちばん気になるところから。フィナステリド(商品名プロペシア)の添付文書に、日本人だけを対象にした試験の数字がそのまま載っています。

国内第Ⅱ/Ⅲ相試験は、414人を48週間追いかけた、本物の薬とニセ薬(プラセボ)を比べる試験です。ここで報告された副作用の発現割合は、フィナステリド1mgのグループで6.5%(9/139例)。ニセ薬のグループで2.2%(3/138例)でした。

そして肝心の性機能まわり。1mgグループで2.9%(4/139例)、ニセ薬グループで2.2%(3/138例)。主な症状はリビドー減退が1.1%(3/276例)、勃起機能不全が0.7%(2/276例)と書かれています(プロペシア錠 添付文書・2023年8月改訂 第4版/2026年9月12日確認)。

ここ、二度読みしてほしいんですが──ニセ薬でも2.2%出てるんです。

つまり100人中2人くらいは、薬でもなんでもない粉を飲んで「なんか調子が…」となっている。人間の性欲って、その日の疲れとか、ストレスとか、「薬を飲んでいる」という意識そのものにも普通に左右されるということですよね。これ、知ってから急に気が楽になりました。

ただし、数字が小さいことと、自分に起きないことはイコールじゃない。ここは盛らずに正直に言っておきます。

試験の数字を薬ごとに見る

AGA治療薬の副作用一覧を、薬ごとに並べてみた

「AGAの薬の副作用一覧」で検索すると、なぜか全部ごちゃ混ぜの一覧が出てきます。でも薬ごとに中身が全然違うので、添付文書の記載を薬別に並べ直しました。この記事でいちばん実用的なのは、たぶんここです。

フィナステリド(プロペシア)=飲み薬

  • 重大な副作用:肝機能障害(頻度不明)
  • 1〜5%未満:リビドー減退
  • 1%未満:勃起機能不全、射精障害、精液量減少
  • そのほか添付文書に挙がっているもの:そう痒症、じん麻疹、発疹、血管浮腫、AST・ALT・γ-GTPの上昇、睾丸痛、血精液症、男性不妊症・精液の質低下、乳房圧痛、乳房肥大、抑うつ症状、めまい

デュタステリド(ザガーロ)=飲み薬

  • 重大な副作用:肝機能障害、黄疸(いずれも頻度不明)
  • 1%以上:性機能不全(リビドー減退、勃起不全、射精障害)
  • 1%未満:乳房障害(女性化乳房、乳頭痛、乳房痛、乳房不快感)、発疹、頭痛、抑うつ気分、腹部不快感
  • 頻度不明:蕁麻疹、瘙痒症、血管性浮腫、浮動性めまい、味覚異常、精巣痛・精巣腫脹、腹痛、下痢
  • そのほか添付文書に挙がっているもの:脱毛症(主に体毛の脱落)、多毛症、倦怠感、血中CK増加

ミノキシジル外用(リアップX5プラスネオなど)=塗り薬

  • 皮膚:頭皮の発疹・発赤、かゆみ、かぶれ、ふけ、使用部位の熱感
  • 精神神経系:頭痛、気が遠くなる、めまい
  • 循環器:胸の痛み、心拍が速くなる
  • 代謝系:原因のわからない急激な体重増加、手足のむくみ

(プロペシア錠・ザガーロカプセルの各添付文書、およびリアップX5プラスネオの一般用医薬品添付文書。いずれも2026年9月12日確認)

並べてみて気づきました。飲み薬2つは性機能と肝臓の話。塗り薬は頭皮の話と、心臓・むくみの話。──そう、タイトルにも入れた「動悸」と「むくみ」、飲み薬のほうには載っていないんです。この件は後半でくわしく説明します。

デュタステリドは、数字がひとまわり大きい

ザガーロ(デュタステリド)は「フィナステリドより効く」と言われる薬です。実際、髪を細らせるホルモンを作る酵素の1型と2型、その両方を止めるので、そういう説明になります。ただ、副作用の数字も一緒に上がります。

国内第Ⅲ相の二重盲検比較試験(557例)では、副作用の発現頻度が17.1%(95/557例)。内訳は勃起不全4.3%(24/557例)、リビドー減退3.9%(22/557例)、精液量減少1.3%(7/557例)。

さらに、0.5mgを52週間飲み続けた国内の長期投与試験(120例)では、副作用の発現頻度が16.7%(20/120例)、勃起不全10.8%(13/120例)、リビドー減退8.3%(10/120例)、射精障害4.2%(5/120例)でした(ザガーロカプセル 添付文書・2025年8月改訂 第2版/2026年9月12日確認)。

勃起不全10.8%。10人に1人です。フィナステリドの0.7%と並べると、さすがに桁が違う。効き目と引き換えに何を受け入れるか、という話が、ここで急に自分ごとになりました。

もちろん試験のデザインも人数も違うので、数字を単純に引き算はできません。それでも「どっちも同じくらいでしょ」と思っていた私には、じゅうぶんインパクトがありました。

そして、両方の添付文書に同じ注記がある

性機能に関する副作用のところに、小さく注が付いています。「投与中止後も持続したとの報告がある」。プロペシアにもザガーロにも、同じ趣旨の一文があります。

やめれば必ず戻る、とは書かれていない。気持ちよく読み飛ばしたくなるところですが、飲む前に一度は目を通しておく価値があると思いました。なお頻度は不明とされていて、どれくらい起きるのかは分かっていません。

ちなみにプロペシアの添付文書には、投与を中止したあとに精液の質が正常化または改善したという報告もある、とも書かれています。片方だけ読んで怖がるのも、片方だけ読んで安心するのも、たぶん正しくない。

じゃあ「動悸」と「むくみ」は?──これ、飲むミノキシジルの話です

「AGA治療 動悸」「AGA むくみ」で検索して出てくる体験談。あれ、ほとんどがミノキシジルの飲み薬(内服)の話です。プロペシアやザガーロの添付文書には、動悸もむくみも載っていません。

そして、ここが大事。日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン(2017年版)」は、ミノキシジルの内服を推奨度D、つまり「行うべきではない」としています。この2017年版が、2026年9月12日時点でもこのテーマの最新版です。

理由もはっきり書いてあります。ガイドラインいわく『ミノキシジルは降圧剤として開発されたが本邦では認可されていない。また、男性型脱毛症に対する治療薬としても認可されている国はない』。そのうえで、内服用製剤の添付文書の市販後調査欄に、胸痛、心拍数増加、動悸、息切れ、呼吸困難、うっ血性心不全、むくみや体重増加といった重大な心血管系の障害が生じるとの記載がある、としています(日皮会誌127巻13号、2763-2777ページ/2026年9月12日確認)。

つまり動悸とむくみは、「AGA治療の副作用」というより「日本では認められていない使い方をしたときに報告されている症状」なんです。この線引きを知らないまま「AGAの薬って動悸するらしいよ」と丸ごと怖がるのは、ちょっともったいない。

逆に言えば、承認外の飲み薬をすすめられたときに、その話をきちんとしてくれる医師かどうかが見極めどころになります。私は最初から承認外の飲み薬を使うつもりはありません。

塗るミノキシジルにも、循環器と代謝の欄はある

じゃあ塗り薬なら心臓は無関係かというと、そうとも言い切れません。市販のリアップX5プラスネオの添付文書には、さっき並べたとおり「胸の痛み、心拍が速くなる」「原因のわからない急激な体重増加、手足のむくみ」がちゃんと書かれています。出たら直ちに使用を中止して、医師か薬剤師に相談、という扱いです。

使う前に相談すべき人も挙がっています。高血圧の人、低血圧の人、心臓または腎臓に障害のある人、そしてむくみのある人。「むくみを増強させる可能性が考えられます」と、理由付きです。65歳以上の人、甲状腺の病気がある人も相談の対象になっています。

それと、これは知らない人が多いと思うんですが──説明書には、他の育毛剤や頭皮への外用剤(軟膏、液剤など)との併用は避けるように、と書いてあります。吸収に影響するからです。

つまり「頭皮がかゆいから育毛ローションを足そう」は、考え方としては逆。塗るものを増やすんじゃなくて、洗うものを見直すほうが理にかなっています。ここ、メモしておいてください。

洗うものを先に見直す

「副作用かも」と思ったやつが、副作用じゃないこともある

初期脱毛という言葉、実は添付文書に無い

AGA治療を調べると必ず出てくる「初期脱毛」。始めて1〜2ヶ月で一時的に抜けが増えるやつです。これ、プロペシア・ザガーロ・リアップX5プラスネオ、どの添付文書にも副作用名としては載っていません。

そのかわりリアップの説明書にはこう書いてあります。使用開始後6ヵ月以内であっても、脱毛状態の悪化や、頭髪以外の脱毛・斑状の脱毛・急激な脱毛が見られた場合は、使用を中止して医師または薬剤師に相談すること。理由は「壮年性脱毛症以外の脱毛症である可能性がある」から。

要するに、「初期脱毛だから大丈夫」と自分で決めつけるのがいちばん危ない。別の脱毛症が隠れているかもしれないので、抜け方が変だと思ったら相談する。これが公式の立場です。

フケとかゆみは、薬のせいとは限らない

もうひとつが、フケとかゆみ。塗り薬のかぶれの可能性はもちろんありますが、40代男性の頭皮のフケ・かゆみって、薬と関係なく起きているケースも多いんですよね。私も、まだ何も始めていない今の時点で、冬場は少し出ます。

薬を塗り始めてから症状が出たなら、まず中止して相談。順番はこれです。そのうえで、始める前から頭皮の状態を整えておくと、あとで「薬のせいか、もともとか」の切り分けがしやすくなる。私はそこを準備しておきたくて、フケ・かゆみ用の薬用シャンプーを1本、先に用意することにしました。

選んだのは、ロート製薬の「メディクイックH 頭皮のメディカルシャンプー 200mL」。医薬部外品で、有効成分はミコナゾール硝酸塩とグリチルリチン酸ジカリウム、効能は「フケ・かゆみを防ぐ」です(ロート製薬 公式製品ページ/2026年9月12日確認)。ドラッグストアで1,000円前後という日用品レンジなので、試すハードルが低いのもいいところ。向いているのは、フケやかゆみが気になっていて、まず洗うものから見直したい人です。

注意点も正直に。これは発毛剤ではないので、髪が増えるものとして期待するのは違います。頭皮に湿疹や赤みが出ている人、塗り薬を使い始めてから症状が出た人は、シャンプーを変える前に皮膚科で診てもらってください。あと私自身はまだ使い始めていないので、使用感の話はできません。ここは正直に。

数字に出てこないけど、始める前に知っておきたい3つ

副作用の一覧には載らないのに、生活にわりと関わってくる話が3つあります。私はここを知らずに始めるところでした。

1. 健康診断のPSA値が下がる

PSAは、前立腺がんを見つける手がかりになる血液検査の項目です。フィナステリドを飲んでいると、この値が約40%下がります。だから前立腺がんの診断目的で測るときは、出た値を2倍して評価すること、と添付文書に書かれています。

デュタステリドはもっと大きくて、6ヶ月後に約50%減少。やはり測定値を2倍して基準値と比べるよう指示されています。40歳を超えると健康診断のオプションにPSAが並び始めるので、受けるときは「AGAの薬を飲んでいます」と必ず伝える。伝え忘れは、見逃しにつながる話です。

2. 献血ができなくなる

これ、私はまったく知りませんでした。日本赤十字社の基準では、フィナステリド(プロペシア等)は服薬中止後1ヶ月、デュタステリド(ザガーロ等)は服薬中止後6ヶ月、献血ができません(日本赤十字社「服薬と献血について」/2026年9月12日確認)。

飲んでいる間ずっとダメ、というだけでなく、やめてからも待つ期間がある。デュタステリドの6ヶ月は、地味に長いです。

3. 家族が薬に触れないようにする

プロペシアは「分割・粉砕しないこと」。そして砕けたり割れたりした場合、妊婦や妊娠している可能性のある女性、授乳中の女性は取り扱わないこと、と書かれています。

ザガーロはもっと踏み込んでいて、皮膚から吸収されるため、女性や小児はカプセルから漏れた薬剤に触れないこと、触れたらすぐ石鹸と水で洗うこと、とされています。男の子の胎児の発育に影響する可能性があるからです。洗面所に薬を置きっぱなしにする習慣がある人は、そこから見直したほうがいい。

私は、始める前にこの3つを決めておきます

ここまで読んで、たぶんあなたも私と同じ考えになっていると思います。副作用は「ある/ない」の話じゃなくて、「どの薬の、どの数字を、自分は受け入れるか」の話でした。

なので私は、最初の受診までにこの3つを決めておきます。

  • どの薬から始めるか。数字の軽いフィナステリドから入るのか、最初から効きの強いほうを選ぶのか。ここを医師任せにせず、自分の希望を持っていく。
  • 何が起きたらやめるか。性機能でも、体重の急な増加でも、これが出たら次の受診を待たずに連絡する、というラインを先に決めておく。
  • 誰に言っておくか。健康診断の問診、献血の受付、そして家族。特に家族が薬に触れない置き場所は、初日に決めます。

効果にも副作用にも個人差があります。ここに並べた数字は「だいたいこのくらいなんだな」という目安であって、あなたの体で何が起きるかを言い当てるものではありません。気になる症状が出たとき、あるいは飲む前の段階でも、判断は必ず医師に相談してください。私も次は、これを紙にメモして予約を取ります。